鉄筋の「かぶり厚さ」とは?規格・基準から不足リスクまで

鉄筋工事で「かぶり厚さ」という言葉を聞いたことはありますか?

建物の寿命を左右する超重要ポイントだってご存知でしたか?

『いまさら聞けないけど、かぶり厚さの基準ってどうなってるの?』。

『もし、かぶり厚さが足りなかったら、どんなリスクがあるの?』。

そんな疑問をお持ちのあなたへ。

この記事では、鉄筋の「かぶり厚さ」の基本から、公共建築工事標準仕様書などの規格、かぶり厚さを確保するための具体的な方法、そして不足した場合の重大なリスクまで、わかりやすく解説します。

この記事を読み終えれば、かぶり厚さの規格・基準が明確になり、現場での指示や確認もスムーズに!さらに、万が一の不足リスクとその対策も理解でき、安心して業務に取り組めるようになります。

鉄筋の「かぶり厚さ」って何? 超基本をチェック!

鉄筋コンクリート構造の建物において、「かぶり厚さ」は建物の耐久性や安全性に直結する、非常に大切な要素です。

まずは「かぶり厚さ」とは何か、そしてなぜそれほど重要なのか、基本からしっかり確認していきましょう。

「かぶり厚さ」の定義:純かぶりと芯かぶりの違いとは?

「かぶり厚さ」とは、一般的に「純かぶり(じゅんかぶり)」とも呼ばれ、コンクリート表面から最も外側にある鉄筋の表面(外づら)までの最短距離のことを指します。

つまり、鉄筋がどれだけコンクリートでしっかり覆われているか、その「覆い」の厚みのことですね。

これに対して、「芯かぶり(しんかぶり)」という言葉もあります。

これは、コンクリート表面から鉄筋の中心までの距離を指します。

設計図や仕様書で特に断りがない場合、単に「かぶり厚さ」と記載されていれば、この「純かぶり」を指すのが一般的です。

この「かぶり厚さ」が適切に確保されていないと、後ほど説明するような様々な問題が発生し、建物の寿命を縮めてしまう可能性があるんです。

なぜ重要?建物の寿命を左右する「かぶり厚さ」の2大役割

では、なぜ「かぶり厚さ」はそれほどまでに重要なのでしょうか?。

主に次の2つの大きな役割を担っているからです。

役割①:鉄筋をサビから守る!防食のバリア機能

鉄筋は、ご存知の通り鉄でできています。

そのため、水分や酸素に触れるとサビてしまう性質があります。

コンクリートはアルカリ性なので、通常はそのアルカリ性が鉄筋の表面に不動態被膜という保護膜を作り、サビを防いでくれます。

しかし、「かぶり厚さ」が不足していると、コンクリートの中性化(大気中の二酸化炭素の影響でアルカリ性が失われる現象)が鉄筋にまで早く到達してしまい、鉄筋がサビやすくなってしまうのです。

鉄筋がサビると体積が膨張し、コンクリートにひび割れを生じさせたり、剥がれ落としたりする「爆裂」という現象を引き起こすことがあります。

役割②:火災から建物を守る!耐火性のキーポイント

万が一、建物で火災が発生した場合、鉄筋は高熱にさらされると強度が著しく低下してしまいます。

「かぶり厚さ」は、この熱を鉄筋に伝えにくくする断熱材のような役割も果たします。

適切な「かぶり厚さ」があれば、火災時でも鉄筋が急激に高温になるのを防ぎ、建物の倒壊までの時間を稼ぐことができるのです。

つまり、人命を守る上でも非常に重要な役割を担っていると言えますね。

公共建築工事標準仕様書に見る「かぶり厚さ」の基準

「かぶり厚さ」の重要性はご理解いただけたかと思います。

では、実際にどれくらいの厚さを確保すれば良いのでしょうか?。

これには、国土交通省が定める「公共建築工事標準仕様書」や、建築業界の標準的な仕様であるJASS 5などがあります。

公共建築工事標準仕様書におけるかぶり厚さの規定

公共建築工事標準仕様書では、建物の種類や部位、使用されるコンクリートの種類、鉄筋の径などに応じて、確保すべき最小のかぶり厚さが詳細に規定されています。

これは、公共建築物の品質確保を目的とした基準であり、民間工事においても参考にされることが多い重要な指標です。

例えば、鉄筋のかぶり厚さ及び間隔について、以下のような表が示されています。

土への接触部材の構造屋内外仕上げ最小かぶり厚さ(mm)
土に接しない部分スラブ,耐力壁仕上げあり20
以外の壁仕上げなし30
柱,梁,耐力壁屋内仕上げあり30
仕上げなし30
屋外仕上げあり30
仕上げなし40
擁壁,耐圧スラブ40
柱、梁、スラブ、壁

基礎、擁壁、耐圧スラブ
40
土に接する部分

60
煙突等高熱を受ける部分60
5.3.5鉄筋のかぶり厚さ及び間隔の例(令和7年版 公共建築工事標準仕様書参考)

(※上記は代表的な例であり、実際の適用にあたっては必ず最新の公共建築工事標準仕様書および特記仕様書をご確認ください。)

JASS 5 (建築工事標準仕様書) との違いは?

公共建築工事標準仕様書と並んで、建築業界で広く参照されるのが、日本建築学会発行のJASS 5です。

JASS 5も詳細なかぶり厚さの規定を設けており、部位や環境条件によって数値が異なります。

公共建築工事標準仕様書とJASS 5は、どちらも建物の品質と耐久性を確保するための重要な基準ですが、対象とする建物の範囲や、細部の規定において若干の違いが見られることがあります。

実際の工事では、これらの基準書や特記仕様書を照らし合わせ、最も適切な(一般的にはより厳しい方の)基準値を採用することが求められます。

どうやって確保する?「かぶり厚さ」を確実に守るための方法

適切な「かぶり厚さ」を確保するためには、施工段階での正確な作業と品質管理が不可欠です。

ここでは、かぶり厚さを確保するための具体的な方法や注意点について解説します。

品質管理の要!スペーサーの役割と種類を知ろう

「かぶり厚さ」を確保するために最も重要な役割を果たすのが、「スペーサー」と呼ばれる部材です。

スペーサーは、鉄筋と型枠の間に設置され、鉄筋を所定の位置に固定し、適切な間隔を保つために使用されます。

スペーサーには、材質や形状によっていくつかの種類があります。

プラスチック製スペーサー: 軽量で扱いやすく、比較的安価なため広く使用されています。

ドーナツ型やブロック型など様々な形状があります。

コンクリート製(モルタル製)スペーサー: 通称「サイコロ」とも呼ばれ、強度が高く、コンクリートとの一体性に優れています。

重量があるため安定性が高いですが、割れやすいという側面もあります。

鋼製スペーサー: 高い強度と精度が求められる場合に使用されることがあります。

使用する部位や鉄筋の太さ、求められる強度などに応じて、適切な種類のスペーサーを選定することが重要です。

正しい間隔で確実に!スペーサーの配置基準と注意点

スペーサーは、ただ設置すれば良いというものではありません。

その配置間隔や設置方法にも基準があり、これを守ることが品質確保につながります。

一般的に、スペーサーの配置間隔は、壁やスラブなどの部位や鉄筋の種類によって定められています。

例えば、壁の縦筋や横筋、スラブの上端筋や下端筋などで、それぞれ適切なピッチ(間隔)で配置する必要があります。

配置間隔が広すぎると、鉄筋が自重でたわんでしまったり、コンクリート打設時の圧力で動いてしまったりして、所定のかぶり厚さが確保できなくなる可能性があります。

スペーサーを設置する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 鉄筋がしっかりと設置され、ぐらつきがないこと。
  • スペーサー自体が破損していないこと。
  • 設計図書や仕様書で定められた種類・形状・配置間隔であること。

コンクリート打設時のズレを防ぐ!施工時の重要な工夫

スペーサーを適切に配置しても、コンクリートを打設する際に鉄筋が動いてしまっては元も子もありません。

特に、コンクリートを高い位置から打設する場合や、バイブレーターを使用する際には、鉄筋や型枠に大きな力が加わります。

そのため、以下のような工夫で、かぶり厚さのズレを防ぐことが重要です。

  • 鉄筋の堅固な結束: 鉄筋同士を結束線でしっかりと固定し、ずれにくい状態にします。
  • 適切なスペーサーの選定と配置: 打設時の圧力に耐えられる強度と安定性のあるスペーサーを選び、適切な間隔で配置します。
  • 丁寧なコンクリート打設: コンクリートを型枠の低い位置から静かに流し込み、鉄筋やスペーサーに急激な衝撃を与えないように注意します。

これらの工夫により、打設後も正確なかぶり厚さを維持することができます。

ちょっと待って!「かぶり厚さ」不足が招く怖いリスクとは?

もし、必要な「かぶり厚さ」が確保されていなかったら、建物にはどのような問題が起こるのでしょうか?。

放置しておくと、取り返しのつかない事態に発展する可能性もあるため、しっかりリスクを理解しておきましょう。

鉄筋のサビが進行!中性化と塩害の恐怖

先ほども少し触れましたが、「かぶり厚さ」が不足すると、鉄筋が非常にサビやすくなります。

中性化: 大気中の二酸化炭素がコンクリートに侵入し、徐々にコンクリートのアルカリ性が失われていく現象です。

中性化が鉄筋の位置まで達すると、鉄筋の不動態被膜が破壊され、サビが発生しやすくなります。

塩害: 海岸近くの建物などでは、海水に含まれる塩化物イオンがコンクリート内部に侵入し、鉄筋の腐食を促進します。

これらの影響で鉄筋がサビると、体積が2.5倍にも膨張すると言われています。

コンクリートがボロボロに…ひび割れ・剥落 (爆裂) の危険性

膨張した鉄筋は、周囲のコンクリートを内側から押し出すように圧迫します。

その結果、コンクリートにひび割れが生じたり、最終的にはコンクリートの塊が剥がれ落ちる「爆裂」という現象を引き起こしたりします。

爆裂が起こると、建物の美観を損なうだけでなく、剥がれ落ちたコンクリート片が人や物に当たって事故につながる危険性もあります。

建物の強度が低下!耐震性・耐久性への深刻な影響

鉄筋は、コンクリートの弱点である引張力への抵抗を担う重要な部材です。

その鉄筋が腐食して断面積が減少したり、コンクリートとの付着力が低下したりすると、建物全体の強度が著しく低下してしまいます。

特に地震などの大きな力が加わった際に、建物の倒壊リスクが高まるなど、安全性に深刻な影響を及ぼしかねません。

また、耐火性能も低下し、火災時の危険性も増大します。

まとめ:鉄筋の「かぶり厚さ」は建物の未来を守る最重要ポイント!

今回は、鉄筋の「かぶり厚さ」について、その定義から重要性、各種基準、確保する方法、そして不足した場合のリスクまで詳しく解説してきました。

鉄筋の「かぶり厚さ」を適切に確保することは、建物の耐久性、耐火性、そして安全性を長期間にわたって維持するために、絶対に欠かせない最重要ポイントです。

公共建築工事標準仕様書やJASS 5などの規格・基準を正しく理解し、スペーサーの適切な選定・配置、そして丁寧なコンクリート打設といった確実な施工管理を徹底することが、建物の品質を守り、未来の安全・安心につながります。

ナカタニ機工では、鉄筋工事に関する様々なご相談や、スペーサーをはじめとした各種資材の販売も行っております。

ご不明な点やお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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